新しい吸着システム(Zero Color System)
■従来技術 (活性炭吸着、化学薬剤処理)による方法
(1)活性炭による吸着処理(闇夜のカラス)
闇夜にカラス。黒のカラスがピンクのフラミンゴに代わっても闇夜では見ることはできません。世界中のEtBr処理のデファクトスタンダードは、活性炭を組み込んだファネルを用いた吸着方式か、お茶パック方式です。その説明書には、吸着剤の交換時期について「When the filter is saturated,」と書かれていますが、活性炭は真っ黒なのでピンク色のEtBrが吸着してもよくわかりません。だからと言って、外液の色から目視で判断する方法も色が薄くて困難です。
その点、Zero Column はエチブロの吸着により赤いバンドが生じ、吸着限界がわかりやすく、確実な処理が行えます。
(2)エチブロデストロイヤーによる処理(毒をもって制す)
「化学薬剤でEtBrを分解処理する」、新しい方法です。薬剤の成分は、重亜硫酸ナトリウム・塩化カリウム・スルファミン酸・エチレンジアミン四酢酸とあります。EtBrは添加により化学結合が開裂されて無毒化されている(変異原性なし)とのこと。しかし、EtBrの分解に必要な薬剤の添加量は?EtBrの濃度がわからない限り必要量は決まらない。処理に先立って濃度を測定しますか?また、処理した液をその度にAMES試験しますか?つまるところ、処理できたかどうかはあいまいで、「処理できたであろう」で、信じるものは救われる。これでは処理に不適です。
事実、取り扱い説明書には、「処理後にはUVで蛍光が消滅していること、またODが純水と同様であることを確認する」とあり、処理できたかどうかを確認することを求めています。
■新技術(ゼロカラム使用)による方法
使用方法
1)吸着カラムをスタンドにセットします。横置きでも可ですが、原則は立てての使用です。
2)ラインのチューブをジョイントすべてに繋いでください。
3)処理タンクを10〜15cm(当初は20cmでした)の高さに置いてください。
4)チューブの下端から駒込ピペットなどで吸引します。液は自然落下で流れます。
この場合の流速は約300m/h 、1分間当たり70〜75滴です(4/6のチューブの場合)。
(説明)
(1)当初の仕様はOEM供給先の意向により「5時間での処理」でしたが、
処理は急ぐこともないでしょうから、液が止まらない程度に、できるだけゆっくりと流してください。
安定した流れになり、吸着処理量が増えます。
(2)流速を知るには電子メトロノームの使用が便利です。流量の調整には、スクリューコックを用います。
例えば、テンポを72(約300ml/h※)にセットして、それに合わせて滴下をコックで調節します。
※事前にテンポと流量の関係を求めておく。4/6チューブの場合、約300ml/h。
(3)カラムクロマトグラフィーでよく行われる Up-flow が吸着によい結果をもたらします。、
特に、大容量カラムでの吸着に顕著です。これについては、改めて書きます。
※可燃物として廃棄できますが、所属機関、自治体によって処理が決められている場合は、それに従ってください。
実施例
吸着剤の量は6.0g。0.5μg/ml濃度のEtBr液3Lが入ったタンクを高さ30cmの台に載せて、自然落下でカラムに通した。吸着は5時間で完了した(吸着の時間変化)。吸着部分は上部から2/3(写真)。
■大容量カラムでの大量処理
東大、京大あるいは米国・NIHなど大きな大学や研究機関では、各研究室から出るEtBr廃液の処理は産廃業者に委託しています。ただ高い処理費用が悩みのようで、大容量のカラムは作れないかとの打診がありました。
(大容量吸着カラムの作製)
市販の容器を加工して写真のような吸着カートリッジを作りました。容積は約200ml、吸着剤は20gで標準タイプの約3.5倍が入っています。安定した流れになるように液は下から上へUp-flowで流れるようになっています。
(大容量カラムでの吸着処理)
写真は10リットルのEtBr液を流した後ですが、18リットルの灯油缶程度、少なくとも15リットルは処理できそうです。ただし、これだけの容量ですので、処理には一日かかります。
液が一気に流れないように、スクリューコックで流量を調整する必要があります。
(廃液処理の業者委託について)
10年前の情報ですが、EtBr廃液は有害物質を含む有機廃液として回収、処理され、その費用は1リットル当たり約400円、
これに回収運搬費が5,000〜10,000円加算されて、20リットル容器では約15,000円になります。
処理費用の削減のために大容量吸着カラムでの処理の可能性を打診してきたのも理解できます。
■吸着のValidationについて
EtBrは変異原性が高いことから、カラムの吸着材に確実に補足されて外に漏れ出て来ないことが何よりも大事です。カラムから溶出してきた液について、EtBrの有無を検査しました。
方法としては、以下の方法があります。
(1)EtBrが230nmに吸収極大を持つことから、吸光度を測定する。
(2)DNAと混合して、蛍光を観察する。
(3)ろ紙に吸着させて蛍光を観察する。
ここでは簡便な(3)の方法を採りました。最初の流出液、1Lおよび2L、4Lを処理した溶出液、いずれにも蛍光は観察されませんでした(検出限界は0.025μg/ml:写真参照)。イオン交換樹脂を用いた吸着剤のBondEX EtBrも、0.05μg/mlまでの蛍光を確認しています。
■閑話休題
STAP細胞で有名になった、"ゼロの証明″です。営業活動で大手試薬メーカーW社に行きました。
とある行政機関から『下水に流すには処理後の液にEtBrが全く含まれていない"ゼロの証明″が必要。それがなければ下水に一滴たりとも流してはいけない』と言われたとのこと。
『それは不可能で、非科学的。排水処理はなりたたない』と反論した。
地元の市の下水課に真偽を聞いたところ、(財)都市技術センターを紹介された。答えは、『処理排水は、下水道法と水質汚濁法の二つで規制される。基準値以下であれば問題ない。そもそもEtBrは規制対象のリストに入っていない』。その旨を連絡したところ、『法務部に確認して連絡する』。その後、何の連絡もない。どこの行政機関かも教えてくれない。(結論)ゼロカラムで処理した廃液は、下水に流せます・・・
「規制がないので流してもよい」との意見もありますが、それはダメ。ゼロカラムで処理してから流してください。
■追加
「つくば」から貴重な意見が寄せられました。
(1)処理したカラムが腐る→ 吸着剤の主成分は食品副産物のオカラを用いていますので、
取説のように、「処理後は放置せずに廃棄する。何度も使わない」でお願いします。
(2)処理液にエチブロが含まれていない証明→ 「ゼロの証明」は難しいです。
■写真
@左:CBB用(25 ml)、右:EtBr用(50 ml) ACBBの場合、染料だけ吸着されて流下液は透明になり、脱色液として再利用が可能 B吸着後のカラム、左:CBB、右:EtBr CEtBr吸着カラムのUV照射 Dろ過用フィルター